Time out of joint 時は乱れて

 

実家にある本との距離が、ときどきぼくをものすごく憂鬱にさせた。夏目漱石からハイデガーに至るまで、ぼくは大学に入ってからというもの、ほとんど図書館を利用した。金の工面というとてもくだらない理由からだった。
おととい、耐えられなくなった。その日ぼくは友人とお酒を飲みながら映画を見ていた。友人が選んできたもので、羊たちの沈黙と、オペラ座の怪人だった。

 食い入るようにそれを見た。何度も見たことがあるのに、初めてのように見た。友人は特に思うところなく見た。感想を聞くと「面白かったね」と言った。ぼくは黙った。

友人宅から帰る途中、本屋に寄った。無性に泣きたくなりながら、本をバカみたいに買った。両手に収まりきらないほど、たくさん買った。一人で可笑しくなりながらバックに詰めた。

 家について、本を並べた。この本たちはもうぼくだけのものだった。

両手で本を抱えて、幸せに浸った。「君には、こういう気持ちもわかんないのかなあ」ぼくは言った。
1冊1冊をたしかめて、眠った。全部を抱きしめて、キスをしたいぐらいだったけど、だれにも見られてないのに、恥ずかしくなってやめた。