『君の名は。』 ネタバレあり感想

 

 

 先日、新海誠最新作『君の名は。』を観に行ってきたので、消えてなくならないうちに色々感想を書いていこうと思う。もちろん完全なネタバレ込みでお届けする、嫌な人は右上を押そう。考察記事なんかもどしどしと上がっているが個人的に考察するような複雑なストーリーでもないと思っているため、単純な感想というページになる。一応劇場公開された新海誠作品は全て見ているはずだから、それを含めた感想が書ければいいなと。基本的に褒める以外能がないので、あんまり批判はかかない。最後にちょろっとだけのせるけども、なにせ作品の完成度も高かったので、褒めちぎるのはご容赦くださいな。

 

 まだ見てない人は見て損はないと思う。新海誠の映像の美しさは、映画館では倍輝く。スクリーンでの圧倒的な新海映像美に浸れる機会なんて、実はそんなにないんだから。一つだけ断っておくとすると、今回の作品は新海誠特有の萎え萎え展開じゃないから安心して見にいくといい。


「君の名は。」予告

 

 

明るい新海誠
 新海誠といえば秒速、秒速といえばむこう一週間は勃たなくなるような展開でおなじみだけど、今回の『君の名は。』のストーリーは過去作に比べだいぶ明るく、またアニメチックな描写も増えつづけたなという感覚を受けた。例えばオーニングであんな風に明るくRAD WINPSの曲が流れるなんて思いもしなかったし、また新海誠がSFと恋愛を織り交ぜて物語を作りつづけたのも意外であった。僕は彼をこと恋愛に関しては、等身大しか描きたくない人だと正直高を括っていたのだ。宮崎駿との違いはとにかくその等身大さだったわけであるが、それは置いておく。
 何はともあれこの明るいファンタジー色のストーリーは彼の進化だろう。俺にはこんなこともできると言わんばかりの完璧なストーリーだった。せつなさ、思春期特有のどうしようもなさが消え、救い?といってもいいようなシーンが一定以上現れた。今回の作品は世界を救い終わった後の出会いの話もかなりたくさんの尺を使って描かれている。間違いなく、こっちも同じぐらい大事にしたかったという彼の意思である。「ずっと誰かを探している」このフレーズとopですでに少女の大人像が描かれたことから「むすび」は本当にあるんだ!と視聴者に訴えかけるの意識が伺え、「彼女とみてください」といった彼の真意も理解した。

 自分は前半の鬱描写が全くないコミカルなシーン拡張に度肝を抜かれた。先ほどアニメチックと書いたが、この前半の軽さと後半の前かがみに進む展開は新海誠が何か新しいものを試作し、試した痕跡が見て取れる。逐一の台詞回しだけ見れば一般的なアニメに近づいてしまった感があるのは否めない。これは彼が何か僕らに伝えるべきことがあってあえてそれをしたのか、はたまたやってみたかっただけなのかわからないが、『風立ちぬ』でファンタジーから一歩の脱却をした宮崎駿と『君の名は。』でそこの領域に踏み込んだ新海誠、この二人はうまく世代というものを表しているなと感じた。あまり災害については触れたくないけども、あったからこそ何か特別なものを作らなきゃいけなくて、それがこういうことになったんだろう。だからこその、最後まで明るい新海誠だった。
 

 

タイムリープの集大成的傑作
 逐一の表現方法は確かに一般的アニメに近くなったが、それが新海誠の価値を下げているのかといえばまったくの別だ。今作は明らかにストーリーとして出来がいい。「アニメ」という媒体に抵抗が薄くなった2017年にふさわしく、多少の深夜アニメ感を持ちながらもそれをそれを一般層になじませるところまで希釈している。
 この作品は昨今流行りに流行りすぎたタイムリープアニメの集大成的傑作であると僕は思っている。アニメ『ひぐらしのなく頃に』以降、いやもっというとディケンズの『クリスマス・キャロル』以降世界にはありとあらゆるタイムリープ系の創作があふれかえっており、現代アニメ史(むしろエロゲかもしれない)における一大キーワードと言っても過言ではないほど、タイムリープという存在は大きな枠組みを作った。そのタイムリープの中でも、この作品は殊更よい出来である。

余談論議 タイムリープという作りやすさについて
 タイムリープ作品は、話の起承転結を作りやすい。タイムリープの痕跡が見せる起、一度救えない世界に絶望を味わう承、まだ救えるかもしれないと気づく転、truthエンドに持ち込む結と物語の波ができやすいのだ。『君の名は。』においてもこの等式は生きていてほぼこの通りにストーリーは進んでいく。そして誰も結局不幸で終わらないところも腑抜けた現代人にとってはグッド。

 まずタイムリープの設定に一手間ふた手間もかかっている。主人公の男と女の入れ替わり、三年のラグ。これはもう思いついちゃったから書いたとしか考えられないレベルだろう。前々から思いついていたのか、はっとして気づいたのか一視聴者には知る余地もないが、あまりに増えすぎて食傷気味になってしまったタイムリープに大きな着地点をもたらし、これでタイムリープはもういいだろうというほどの完成度だった。

 

切なく降るものたちの消失
 秒速では桜、言の葉では雨。彼の物語にかかせないのは切なく降るものたちである。しかしながら今回、これらの特徴的な登場はなかった。雨は後半の山を駆け上がる焦燥に用いられて(これもアニメくさくなったと感じた一因でもある)おり、切なさ全開の頂上シーンは雲の上である。夜空を覆った彗星を切ないと捉えていいのかは疑問だけども、あれが今回のテーマなのだろう。今回はナチュラルなもの悲しい雰囲気の新海誠ワールドではなかったため、降るものたちはお休みになられたのかな。


東京と伝統
 新海誠作品で目立った存在である東京は未だ話の核にしっかりと加わっていて、こういう場所には彼らしさがまだたっぷりと残っていた。また今回は古くからの伝統も一つのテーマとして描かれていたが、これも生まれた国特有のなにかを大事にする彼らしかった。

 

RADWINPSの功績
 僕は成功だったと思う。彼らの歌にはせつなさとJPOP的既視感がいいようにぐちゃぐちゃになっていて、見事に題材にマッチしていた。確かに『君の名は。』で山崎まさよしに歌われても困るし、いいチョイス。よくやったと褒めるべきだろう。

 

声優陣
 うまくやっていた。長澤まさみが最高だった。控えめに結婚していただきたい。神木くんもいい青春の声をしていた。女声の神木が普通にカマだったのに笑ってしまったけどまあそれもそれでよし。


 まだまだ書き足りなかったし、言い残したことがあるような気がしているが、疲れたから今日はここまで。来週また見に行く予定なので、その時にでも加筆しようかな。

 このヒットを機に彼は本格的に大衆にむけたものにシフトされていくんだろうか、僕はそれがすこしだけ心寂しい。僕は彼のどうしようもないせつなさというか、そういうところも含めて好きだったのだ。もうこの先、秒速の「ああ…死のうかな…」なんて終わった後考えちゃうような話は描きにくいだろう。 彼も大きくなったなあ。それだけが僕の小さな寂寥感で、『君の名は。』試聴後湧いた唯一のネガティブな感想である。